熱海の一棟貸しとは、戸建てや棟単位の建物を1組で独占して泊まる宿のことです。ただし同じ表示でも、営業の根拠は3つに分かれています。
熱海市観光文化部観光商工課がまとめた令和7年版「熱海市の観光」によると、令和6年度に市内の宿泊施設を利用した人は3,373,038人で、前年比102.9%と伸びました。うち宿泊が3,069,122人です。観光交流客数は6,225,910人で前年比99.2%。日帰りが減り、泊まる人が増えた1年だったわけです。
この記事でわかることは、次の3点になります。
- 熱海で「一棟貸し」を名乗る宿が、どの法律を根拠に営業しているのか
- 静岡県の条例によって、平日に泊まれない区域が生じる仕組み
- 市の統計から読み取れる、混みやすい月と空きやすい月
みんぱくマップの運営者は一棟貸し民泊4施設を管理しており、宿を「写真」ではなく「営業の根拠」から見る癖がついています。旅行者の側にこの視点が共有される場面は、そう多くありません。以下は2026年9月に公開を確認できる市と県の資料を読み比べ、その範囲で説明できることだけを並べた内容になります。
熱海の一棟貸しは3つの制度に分かれている
まず押さえたいのは、建物を貸し切る宿が1つの制度で成り立っているわけではない、という点です。熱海では次の3つが同居しています。
1つめが旅館業法の許可を受けた施設。宿泊料を受けて人を泊める行為は、届出ではなく許可の対象になります。簡易宿所営業の許可を取った戸建てが、数泊の旅行者を受け入れる受け皿の中心です。
2つめが住宅宿泊事業法にもとづく届出住宅、いわゆる民泊新法の宿になります。国土交通省観光庁の住宅宿泊事業法の概要によると、住宅宿泊事業は「人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えないもの」と定義されました。届出先は都道府県知事等で、熱海市内の住宅は静岡県の窓口が受け付けます。
3つめが1か月以上の期間で貸す賃貸物件。こちらは宿泊業ではなく賃貸借にあたるため、数泊の旅行では使えません。予約サイトに「マンスリー」と併記されている物件が該当します。
なぜ制度の話から入るのか。営業の根拠が違うと、予約できる曜日と日数の上限が変わるからです。同じ外観の建物でも、カレンダーの埋まり方が別物になります。
根拠法ごとの比較|熱海は「町全体で民泊禁止」ではない
リゾート地の一棟貸しというと、軽井沢のように自治体が民泊を全域で認めない例を思い浮かべる人もいます。熱海はそうではありません。
| 営業形態 | 根拠 | 旅行者にとっての利点 | 制約 |
|---|---|---|---|
| 簡易宿所営業/旅館・ホテル営業 | 旅館業法(保健所長の許可) | 年間日数と曜日の縛りがなく、平日も予約枠が出やすい | 許可要件を満たす設備が要るため、料金は相応に設定されやすい |
| 住宅宿泊事業(民泊新法) | 住宅宿泊事業法(届出) | 住まいの造りをそのまま活かした滞在ができる | 年間180日の上限に加え、県条例で区域と曜日の制限がかかる |
| 1か月以上の賃貸 | 賃貸借契約 | 長期滞在やワーケーション向き | 数泊の旅行には使えない |
静岡県が公開する住宅宿泊事業(民泊サービス)の実施の制限についてのページによると、制限の根拠は平成30年3月28日静岡県条例第18号で、平成30年6月15日に施行されました。原則として制限される区域は2種類です。
幼稚園、小中学校、高等学校、高等課程のある専修学校、外国人学校、認可保育園、認定こども園から100m以内
月曜日~金曜日 ※祝日、学校等の休業日を除く
(静岡県「住宅宿泊事業(民泊サービス)の実施の制限について」)
もう1つが住居専用地域。第1種・第2種の低層住居専用地域と中高層住居専用地域が対象で、こちらも月曜日から金曜日まで(祝日を除く)が制限期間になります。県はこれとは別に、市町との協議で特別用途地区や別荘地などを追加指定する枠組みも持ちました。
ここが熱海を読むうえでの分かれ目です。県が公開する追加指定の一覧に挙がっているのは浜松市・三島市・磐田市・藤枝市・袋井市・湖西市・長泉町・菊川町で、熱海市の名前はありません。つまり熱海では、県内一律の2区分を超える上乗せの区域指定が置かれていない状態になります。

宿泊施設の内訳が語る、熱海に一棟貸しが生まれた背景
熱海に建物貸し切り型の宿が増えている理由は、市の統計からある程度たどれます。入湯税から見た宿泊施設数(3月末現在)を並べると、変化がはっきりします。
| 年度 | 合計 | ホテル・旅館 | 寮・保養所 |
|---|---|---|---|
| 平成15年度 | 412 | 136 | 276 |
| 令和5年度 | 307 | 167 | 140 |
| 令和6年度 | 305 | 176 | 129 |
同じ資料によると、企業の寮や保養所は平成15年度の276から令和6年度の129へ、およそ53%減りました。一方でホテル・旅館は136から176へ増えています。総数が412から305へ縮むなかで内訳が入れ替わった格好です。
使われなくなった保養所や別荘が宿へ転用される流れは、全国の住宅事情とも重なります。総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%で過去最高でした(調査結果の概要)。同調査で「別荘」は、週末や休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用され、ふだんは人が住んでいない住宅と定義されています。
ただし空き家がそのまま宿になるわけではありません。旅館業法の許可か住宅宿泊事業法の届出、どちらかの手続きを経て初めて客を迎えられます。宿のタイプそのものを比べたい人は、一棟貸しの宿の選び方|人数・目的で見るタイプ別比較もあわせて確認できます。
時期・人数・立地から絞り込む5ステップ
制度の輪郭がつかめたら、条件の絞り込みに移ります。一棟貸しを予約するときは、次の順番で見ていくと迷いが減ります。
- 人数と寝室数を先に固定する。定員いっぱいの予約は、リビングに布団を敷く前提になっている場合があります。写真ではなく寝具の数を数字で確認します。
- 時期を決める。令和6年度の月別宿泊施設利用人数を見ると、最も多いのが3月の355,519人(年間の10.5%)、次いで8月の351,098人(10.4%)。最も少ないのは6月の226,415人(6.7%)でした。梅雨どきは価格も枠も緩みます。
- エリアを絞る。熱海駅周辺、伊豆山、南熱海(多賀・網代)では、坂の勾配も海の見え方も変わります。車の有無で候補は入れ替わるものです。
- 営業形態と設備を確かめる。施設ページに許可番号や届出番号の記載があるか、温泉が引かれているか、駐車台数はいくつか。ここまで見て初めて比較になります。
- 移動と駐車を決める。熱海は道幅の狭い坂が多く、大型車では入れない区画もあります。到着後の動線まで含めて考えたいところ。
迷いやすいのは2番目でしょうか。夏の海と花火に目が向きがちですが、統計上のピークは3月です。梅の時期からの春先に人が集まる構造なので、8月を避ければ空くという単純な話にはなりません。温泉を軸に探すなら温泉付き一棟貸しの探し方で条件の見方を整理しています。
予約前の注意点とよくある失敗
制度の話は退屈に見えて、当日のトラブルを防ぐ実務そのものです。見落としやすい点を挙げます。
- 平日に泊まれない可能性。県条例の制限は曜日単位で効きます。届出住宅を平日利用する計画なら、区域の該当有無を予約前に確かめてください。
- 営業形態の記載がない施設。許可番号・届出番号が見当たらない場合、問い合わせて確認したほうが安全です。
- 「温泉付き」の中身。源泉かけ流し、循環、温泉スタンドからの運び湯では体験が変わります。表記だけで判断しないこと。
- 坂と駐車場。高台の物件は眺望と引き換えに、荷物の運搬距離が長くなる場合があります。
- ごみ出しと騒音のルール。住宅地に立つ宿では、地域の取り決めが滞在中の行動を左右します。
※ 制度の運用は法改正や自治体の判断で変わります。本記事は2026年9月に公開を確認できる資料にもとづく整理であり、個別の可否は熱海市・静岡県の担当窓口や専門家にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
熱海に民泊はありますか?
あります。軽井沢町のように全域で民泊施設を認めない方針を示している自治体とは異なり、熱海市は静岡県の条例による区域・曜日の制限が適用される形です。数泊で予約できる宿には、旅館業法の許可を受けた施設も多く含まれます。
平日に泊まれない一棟貸しがあるのはなぜですか?
静岡県条例第18号が、学校等から100m以内と住居専用地域について、月曜日から金曜日までを住宅宿泊事業の制限期間としているためです。旅館業法の許可を受けた施設には、この曜日の制限はかかりません。
熱海で宿が取りやすいのはいつですか?
令和6年度の実績では6月の宿泊施設利用人数が226,415人で年間最少、全体の6.7%でした。逆に3月は355,519人で10.5%を占めます。日程に融通が利くなら梅雨どきが候補になります。
予約サイトで営業形態を見分けるにはどうすればよいですか?
施設ページに掲載された許可番号や届出番号の表示を確認するのが早道です。記載が見当たらないときは、予約前に施設へ直接問い合わせてください。
まとめ
要するに、熱海で建物を貸し切る宿は、外観や写真ではなく営業の根拠から確認したほうが失敗しません。
- 受け皿は旅館業法の許可・住宅宿泊事業法の届出・1か月以上の賃貸の3つに分かれる
- 静岡県条例第18号により、学校等から100m以内と住居専用地域では平日が制限期間になる
- 令和6年度の宿泊施設利用人数は3,373,038人で、3月が10.5%と最多、6月が6.7%と最少
エリアごとに宿を見比べたいときはみんぱくマップのエリア一覧、制度の基礎から確認したいときは一棟貸しとは?ホテル・旅館との違いと選び方が入口になります。みんぱくマップでは、次も制度と実務の両面から宿選びの材料を集めていきます。
最終更新: 2026-09-09
※本記事は一般的な情報提供を目的とし、個人の感想を含みます。制度・料金・設備の最新情報は各自治体および施設の公式情報をご確認ください。
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